広がるSOHO支援サービス、家賃3万円台から開業――ネット上で顧客探しも。(日経産業新聞/井本剛司)

サラリーマンの独立・起業を助けます――。在宅ワーカーや従業員数人のベンチャー企業など、デジタル時代に入って増加してきたSOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)と呼ばれる小規模事業所を支援する新サービスが広がり始めた。

高度な通信環境を整えた貸しオフィス業から営業支援、福利厚生代行など種類も多様化している。いずれも従業員が一―二人の企業でも利用できる。ネットを活用したサービスが目立つのも特徴だ。

SOHOが日本で定着するかどうかは、こうした支援サービスの充実ぶりにもかかっている。ここ半年―一年間以上の稼働実績を持つ事例を検証してみた。(小谷洋司)
 横浜港から「みなとみらい」のビル群までを一望できる横浜市中区山下町に、貸しオフィス「SOHO横浜インキュベーションセンター」がある。


常時入居待ち状態


 このビルには入居待ちが常に数十人いるという。景色のよさだけでなく、高度なインターネット接続環境を備えているのが人気の理由だ。運営するのはSOHO(横浜市斎藤裕美社長)。部屋数は七十五室で広さは一室あたり十八―四十二平方メートル。秒速六十四キロビットの家庭用ISDN回線の二十倍を超える高速LAN(構内情報通信網)を有料で利用することもできる。

 入居者に対する事業支援にも力を入れている。税務会計サービスや法律サポートに加え、九八年には社内に技術者で構成する「SOHO技術研究所」を設置し、入居中のIT(情報技術)系ベンチャー企業にノウハウや人手が一時的に足りないときに技術支援する。
 家賃は月三万九千―十万円(初年度)。別途、管理費として一平方メートルあたり千円などを集める。入居者の四五%を情報技術系の事業所が占め、都市・建築設計・デザインが三五%、公認会計士などが一〇%、ほか一〇%となっている。


業務受託を割り振り


 SOHOのために仕事を確保する営業支援サービスも、マンパワーが限られるSOHOにとって心強い味方となる。
 人材派遣大手のパソナ(東京・千代田、南部靖之社長)はアウトソーシング(業務の外部委託)受託事業の一環として、データ入力作業など個人の在宅ワーカーらに委託しやすい業務を顧客企業から獲得し、SOHOに再委託している。

 顧客企業に出入りしているパソナの営業担当者が仕事を取ってくるとパソナのホームページに内容を公開、業務に従事したいSOHOを募る。その中から最適な技能を持つSOHOをパソナ側で選んで仕事を割り振るしくみだ。
 データベースに登録・蓄積しているSOHOは約一万千社。派遣社員の技能チェックのノウハウなどを持つパソナが間に入ることで「委託企業は一定レベルの技能水準があると信頼して仕事を出してくれる」(松原浩幸・営業企画部ジュニアディレクター)という。SOHOはよほど特殊な専門性がない限り、まだ個人ではなかなか仕事をもらえない現実もあるようだ。
 コクヨはインターネット上で業務を受託したいSOHOとSOHOに業務委託したい側の企業との間を結ぶ情報交換の場「SOHO便利帳」を開設している。現在約三百のSOHOが業務内容などを登録済みで、企業は自社で業務を依頼したい先を選べるようになっている。パソナと異なりこちらは企業を掲示するだけで、実際の業務委託先選定や委託契約作業などには一切タッチしない。
 三月には内容を大幅に刷新する。SOHOで組織する各種団体の情報を集約したり、SOHOに快適な職場環境を作るためのオフィス家具の情報などを拡充する。オフィス家具販売の底上げにつなげるねらいだ。


保養所利用や保険も


 SOHOと大企業の福利厚生制度などの格差を埋めるため、会員制の総合支援サービスを手がけるのはSOHO高度化促進協議会(東京・渋谷、井本剛司代表理事)だ。大企業の福利厚生制度で一般的な保養所契約を代行する会社と提携して、SOHOの社員がホテルや旅館を割引料金で利用できるようにしたり、休業時に備える所得補償保険や会社設立・公的助成金の申請など各種手続きを支援する。
 入会金は一人当たり五千円で年会費は同一万二千円。福利厚生代行では専業の福利厚生課(東京・品川)と提携、全国に約千カ所のホテルや旅館、スポーツ施設などの割引利用できるメニューをそろえている。在宅ワーカーも意識し、一人から加入できる。
 所得補償保険は安田火災海上保険と同協議会が団体契約する形にしている。このため、一般より約二割安い月額四千円前後の保険料(本人が三十二歳の場合)で、病気などによる休業時に月額で最高三万円が最長一年間給付される。法人格を持っていないSOHOでも参加できる。
 新しい雇用の受け皿として期待されるSOHO。今後も多様な支援サービスの登場が期待される。