特集~契約前のチェックポイント三〇(日経ベンチャー/起業家情報センター/井本剛司)

FCビジネスに挑む際に、最初の関門となるのは、玉石混交の中からいかに優良な本部を選ぶかだ。

本部の姿勢、事業モデル、費用負担、情報開示の姿勢などチェックする項目は山ほどある。

面倒だと考えず、あらゆる手段を使ってチェーンの真実の姿をつかむ努力が大切だ。

 中小企業がFCに加盟して新規事業に乗り出す場合、その成否は本部の選び方で大きく左右される。加盟にあたっては、本部や既存の加盟店を訪ねて情報収集しながら、本部の“真の姿”をあぶり出す必要がある。

 本部と加盟の交渉をする際に、押さえておくべきチェックポイントを次ページにまとめてみた。これを踏まえたうえで、良い本部と悪い本部の判別法を見ていこう。

 本部で話を聞く時、まず、確かめておくべきなのは、加盟店の運営指導に当たるスーパーバイザー(SV)の人数だ。一人のSVが担当する店舗数は、飲食と小売りでは一五店、サービスでは三〇店程度が標準的とされる。

 担当する店舗数が多すぎる場合、その本部の方針は、店を増やすことが優先で、加盟企業に対する指導を二の次にしている可能性が高い。

 「ある中古品リサイクル店は、FC展開を始めてからわずか二年ほどで二〇〇店を出した。だが、SVの育成が追いつかず、加盟店から不満が噴出するなど、急拡大の歪みが出ている」とある経営コンサルタントは話す。

 短期間に大量出店している本部では、加盟店を募集する店舗開発担当者の給料やボーナスが歩合制であることが多く、それが歪みを生じさせる温床になっている。

経営指導の内容を確認

 また、開発担当者とSVとの連携がとれているかどうかについても検証する必要がある。ほとんどの本部は、加盟企業の開拓は開発担当者、加盟後の指導はSVと“分業制”をとっているからだ。

 開発担当者は、加盟企業を増やしたいと焦るあまり、SVの経営指導の頻度や内容などについて、誇張して伝えることが少なくない。

 中古ゴルフ用品販売店ゴルフ・ドゥさいたま市、松田芳久社長)では、加盟希望者とFC契約を結ぶ前に、担当するSVを決め、開発担当者、加盟希望者の三者で話し合う機会を設けている。「開発担当者とSVの言うことに食い違いが生じないように、事前にSVの話も聞いてもらうようにしている」と松田社長は話す。

 加盟希望者にとって、契約前にSVと接触できるメリットは大きい。SVの能力があまり高くないと感じたら、本部に交代を要求できる。新しく担当に決まったSVにも満足できない時には、チェーンのレベルが低いと判断して加盟をとりやめるという選択肢もある。

 もちろん、加盟する前に一度会っただけで、SVの能力を見抜くのは簡単ではないが、少なくとも、事前にSVを加盟希望者に引き合わせる本部は、良心的だといえる。

 FC本部の実力を見抜くには、チェーンの事業モデルそのもののチェックも欠かせない。

 その際、必ず押さえておきたいのが、チェーン売上高、本部売上高の伸び率だ。前者については、既存店ベースの売上高についても数字を入手しておく。

 売上高が右肩上がりで伸びているように見えても、既存の店が売り上げを落としていれば、そのチェーンは勢いを失いつつあると判断できる。

 また、五店以上展開している加盟企業が何社あるかという点も、必ずチェックすべきポイントだ。企業として事業に取り組むなら、多店舗化できなければ、加盟する意味はないに等しい。すでに何社もある場合には、そのうちの一社を訪ねて話を聞いてみるのも有効だろう。

 店舗数の多いFCの場合、加盟してもすでに出店余地が残されていないケースもあり得る。本部によっては、加盟企業に出店地域をあらかじめ割り当てるエリア制を採用している。その場合には、当然残されているエリアをチェックしなければならない。

 二〇〇〇年にパソコンやAV機器のリサイクル店「ハードオフ」に加盟したマキヤ(静岡県沼津市)の矢部隆社長は、「加盟するまでに二度、断られた」と話す。本部はエリア制を採用しており、マキヤが出店を希望した地域に、すでに既存の加盟企業があったためだ。

 三度目のアプローチで、「本部が既存の加盟企業から承諾を取りつけてくれ、静岡県東部地域だけならという条件付きで加盟が認められた」(矢部社長)。マキヤは静岡県沼津市に一店目をオープン、ここでノウハウを身につけ、現在、三重県のエリアを本部から割り当ててもらい、合計五店を展開している。

 個人と違い、企業が加盟する場合には、出店地域にそれほど固執する必要がない。エリア制を採用している本部から加盟を断られた場合には、その理由を聞き出し、他に空いている地域はないか、必ず確かめる必要がある。

 米国など海外で実績のあるチェーンが、日本に上陸して加盟店を募集している場合、顧客対象や価格設定などをどのように変えていくつもりなのか聞いておくことも重要なポイントだ。

 例えば、本国では大衆向けの品ぞろえなのに、日本では「珍しい商品だから多少高くても大丈夫」と顧客対象を変えているような場合、最初は集客できたとしても、時間の経過とともに競争力を失っていく恐れがある。

 店舗の内装費や設備費などがどのくらいかかるのかについても、できるだけ細かい費用まできちんと把握しておく必要がある。

 その中で、見落としてしまいがちなのが、数年に一度必要なPOSシステムの更新費や、年末年始のキャンペーン費用など、一時的に発生する費用だ。

 これらの費用については、本部の説明を受けた後、既存の加盟店に足を運び、話に食い違いがないかを確かめておきたい。

本部の信頼度を示す情報開示

 マイナス情報をどれだけ開示するかを見ることも、信頼のおける本部を選ぶうえでは欠かせない。直営店と加盟店の閉店数、チェーンからの脱退者数などを包み隠さずに教えてくれれば合格だ。

 情報を聞き出すことができたら、閉店や脱退の理由を本部はどうとらえているのか、それを減らすためにどんな手を打ったのかについても質問し、経営不振に陥った加盟店にどんなフォローをする用意があるのか確認しておく。

 ここ数年、FCのトラブルが多発しているため、本部がどんな内容の訴訟を何件抱えているかも気になるところだ。

 この点については、本部が情報を開示しなければ、そのチェーンの加盟者が多い都市の地方裁判所に足を運び、原告と被告の名前から管轄内の訴訟を検索して、自らの手で訴訟の数や内容などを調査しておくべきだろう。

  米国では、FC本部は訴訟歴を公開することが義務づけられているので、米国から上陸したチェーンについては、本国の本部に問い合わせれば、裁判の件数や内容を教えてもらえるはずだ。

 現在、日本で訴訟を起こされている「サブウェイ」は、米国でも訴訟を抱えている。日本で裁判を起こした加盟者の中には、米国での評判を事前に調べていれば、加入を思いとどまったケースもあったはずだ。

 このような点について一通りの情報をつかんだ後は、必ず本部の経営者と直に会って話す機会を持つべきだ。

 経営者と会った時に一番大切なのは、事業に対する理念と目標に共感を覚えることができるか。とにかく拡大志向で日本一を目指しているのか、質を重視して緩やかな拡大で十分と考えているのか、経営者と話をしながら見極める。

 事業環境が刻々と変化する中では、硬直的な上意下達ではなく、イコールパートナーとして協力関係を築いている本部のほうが、対応力が優れているのは間違いない。本部が加盟店同士の交流を推進、歓迎しているか、あるいは、加盟店からの提案や意見を積極的に吸い上げているかといった点に注目すれば、いずれのタイプの本部かを見抜くことができる。

 契約書のチェックは言わずもがなだろう。基本的には、FC契約に詳しい弁護士に契約書の内容を一度確認してもらうべきだが、素人でもポイントさえ押さえておけばチェックできる。

 例えば、契約書の条文に「原則として」という表現が目立つ場合は要注意。「原則として既存店の周囲Xキロ以内に新規出店はしない」という項目の場合、本部は「例外として」は出店する可能性があると考えているということだ。契約としては何の意味もない。

 また、本部が加盟店に何をしてくれるのか、開店前研修の日数と内容、SVの来店頻度、開店後研修の回数などに関し、曖昧な記載しかない契約書にも注意がいる。

 当然、こうした内容を盛り込めば契約書の項目は多くなる。「日本の契約書は、三〇数項目のものが多いが、項目を六〇くらい設けて詳細に記述しているチェーンのほうがトラブルが発生する可能性は少ない」とFCビジネスに詳しい川越憲治弁護士は話す。

FC本部の多くは立派な加盟案内書を用意しているが、その内容を鵜呑みにせずに、自分で納得いくまで調査することが大切だ

大手コンビニチェーンのFC加盟契約書。項目の一つひとつをきちんとチェックしておくべき

毎年3月、東京で開かれている「フランチャイズ・ショー」には多くの本部が出展している。効率よく情報を集めるのに好都合だ

加盟前の調査徹底が成功率を高める

――起業家情報センター社長  井本剛司氏

  FCに加盟すれば必ず儲かる――これは甘い考えにすぎない。昨年、我々が実施したFC店経営者に対するアンケートによると、収支が黒字であるという答えは全体の五二%。収支均衡が一九%で、残り二九%は赤字に苦しんでいるという実態が明らかになった。

 詳しく分析すると、加盟したチェーン以外の本部を調べずに契約してしまった経営者が全体の四一%を占め、その場合、三〇%が赤字に陥っている。一方、複数のチェーンを検討した場合には赤字の比率は二六%と減少する。さらに、五チェーン以上を検討したうえで加盟するチェーンを決めた経営者は七%しかいないが、その赤字の比率は一六%にすぎない。

 企業としてFCに取り組む場合、複数の本部を検討して選ぶケースがほとんどのはずだから、三割が赤字ということはないだろうが、二割程度は苦しい経営を強いられているのではないかと推測される。

 とにかく肝に銘じなくてはならないのは、FCビジネスに失敗したくなければ、事前に多くのチェーンを比較検討して、その中から最良な本部を選ぶことがいかに大事かということだ。

 また、アンケートでは、開業前に期待した通りの業績があがっているかという質問もしてみた。それに対して、「期待以下」と答えた経営者が六七%もいた。

 その理由で一番多かったのが、「本部の売上予測が高すぎた」(二二%)というもの。本部の売上予測を鵜呑みにして、事業計画を立てたら、資金繰りに苦しむ危険性が高いことも判明した。既存の加盟店を訪ね、現実の売り上げを確認して、それをもとに資金繰りを考えておくべきだろう。

 「業界全体が縮小している」「本部が十分指導してくれない」という理由を挙げる経営者も多かったが、これらの点も、ある程度は契約前に調べることができる。そうした努力を怠った結果、期待通りの業績があがらなくても自業自得といえる。

■アンケートの概要

二〇〇〇年六月、三〇業種の一五六チェーンに加盟する三万店に「FC店経営者業況調査」を発送。有効回答数は一五三九。