みんなで入れば怖くない?! フランチャイズ拡大中(朝日新聞/起業家情報センター/井本剛司)

ひところのどん底は脱したとはいうものの、依然、不景気ムードが続く中、コンビニや飲食店チェーンに代表されるフランチャイズ(FC)ビジネスの高成長が目立っています。リストラにあったサラリーマンがラーメン店を始めたり、町の酒屋さんがコンビニに衣替えしたりするばかりでなく、大手企業がFC加盟で多角化を図る例も目につくようになりました。本部の設立や加盟店募集を支援するビジネスも広がっています。ただ、急拡大に伴いトラブルが増えているようです。一部にバブルの様相をのぞかせるFCビジネスの最前線を報告します。

 

 ○トヨタ、東電もお世話に 多数FC加盟の企業登場

 大型連休直前の四月二十七日、「TOYOTA」と「TSUTAYA」の二つの大きな看板を掲げる店が東京都江戸川区京葉道路沿いにオープンした。前者はもちろん自動車。後者はカルチュア・コンビニエンス・クラブ大阪市)が全国展開しているビデオレンタル・CD書籍販売のFCチェーン。自動車店とビデオ店がひとつになっているのだ。経営はともにトヨタ自動車一〇〇%出資の販売会社、トヨタ東京カローラだ。

 連休九日間の来店客数はTSUTAYA部分が一万六千人、トヨタ部分が六千人。車の方が一万人少ないとはいえ、自動車だけを扱う同社の他店は同じ期間でせいぜい三百人だった。販売台数も六十七台にのぼり、他店を圧倒した。宮田純二取締役営業改善部長は手放しの喜びようだ。「ふたを開けてびっくり。客が増えると店に活気が出るし、客が車に触れる機会が増えて、販売台数が伸びる」

 もともと車だけだったこの店にFC加盟の話が持ち上がったのは二年前。販売台数がじわじわ下がっていた。築三十年以上になる店の建て替えと合わせ、集客力を高める手段としてFC加盟を選んだ。

 ところ変わって、埼玉県入間市にある大型銭湯「極楽湯」も連休中、大にぎわいだった。極楽湯は自然堂(東京)のFCチェーン。この入間店は東京電力の一〇〇%子会社、東電不動産管理が昨年十一月に開店した。東電不動産がFC加盟したのは事業多角化のためだ。同社は東電の社宅や事業所、電柱の敷地の管理を手掛けてきた。ところが、電力事業の自由化をにらんでリストラを進める東電が三年前、子会社の自立経営を打ち出した。

 東電不動産は新規事業推進部を設け、ウイークリーマンションや墓地、駅前託児所などの経営を検討。しかし、「自力で経営ノウハウを蓄えるのは時間がかかり過ぎるし、リスクが大きい」(平野守生同部副部長)ことから、FCを選択した。

 企業のFC加盟が進み、多数のFC店を経営する「メガ・フランチャイジー」と呼ばれる業態が登場してきた。

 店頭公開している紳士服量販店、ゴトー(静岡県沼津市)は一九九四年以降、リストラで十一の過剰店舗を古本販売の「ブックオフ」などのFC店に切り替えてきた。

 「賃借の契約期間が残っていたため、最初は閉鎖店舗を転貸したが、どうしても足元を見られる。それならFCに加盟して店を経営しようということになった」と加藤博彦専務。今では、新規立地を含め四チェーンの四十店を経営し、FC部門の売り上げが全体のほぼ半分になった。

 さらにFC店経営が本業という企業もある。「世界一のメガ・フランチャイジーが目標」というタニザワフーズ(愛知県岡崎市)が現在経営するFC店は、吉野家ロッテリアなど外食を中心に八チェーン八十二店。年商は約百億円。二〇一〇年に三百店、三百億円を目指す。

 谷沢憲良社長は「メガになると本部に対する発言力も増すし、仕入れなどでスケールメリットをとれる」と強みを語る。同社は七〇年代までは繊維メーカーだった。


 ○格付けやお見合いも 本部支援のビジネス活況

 経営情報サービス会社のベンチャー・リンク(東京)は今年五月期連結決算で、FC本部を支援する事業の売上高が、前期に比べ三割増の三十一億円に達する見通しだ。有望な企業にFCチェーン化を勧め、システムづくりを指南し、加盟店の募集を代行して、手数料を受け取る商売だ。動き出したチェーンの指導も請け負う。九二年から手掛け始め、ここ五年で本格化した。

 現在支援しているのは外食や中古ゴルフ用品販売など九つのFC本部。昨年一年間に代行募集した加盟店は七百三十四店と前年の五倍近くに膨らんだ。これまで支援したFC本部の代表格はレストランのサンマルク岡山市)と中古車販売のガリバーインターナショナル(千葉県浦安市)。ともに三けたの加盟店を獲得し、それぞれ九五年と九八年に店頭公開を遂げた。

 ベンチャー・リンクの田中恭貴常務は「米国と比べると日本のFCはまだまだ伸びる余地があるし、先行きの暗い中小業者は必死に新規事業を探している。FC支援事業はさらに大きな収益源に育つ」と強気だ。

 調査会社、起業家情報センター(東京)の井本剛司代表によると、FC本部設立を請け負うコンサルタントは業界に百人はいるという。「中には、FC屋とか立ち上げ屋とか呼ばれ、FC本部を粗製乱造し、加盟者を食い物にする業者がいる」と指摘する。

 同社は九五年の設立で、加盟希望者の相談にのり、FC本部の実態を調べるのが商売。コンビニをはじめ十六業種の百本部に加盟する四千五百店を調査し、本部に対する満足度のランキングをまとめ、今年三月から公開している。FC本部の格付けもビジネスになってきた。

 リクルートは九三年から、FC本部と加盟希望者を引き合わせる「アントレフェア」を開いている。最近は東京と大阪で年六回開催。数十社の本部のブースが並び、来場者数は増加を続け、東京では二日間に二千人から三千人に達する規模になっている。

 FC加盟者の募集は、同社が九七年二月に創刊した月刊誌「アントレ」の柱でもある。同様の競合誌は十誌を下らず、どの出版元もFC市場に狙いを付けている。


 ●倒産、訴訟ひずみ広がるバブル、はじける気配も

 FC急成長の一方でひずみも生じている。携帯電話販売大手、光通信(東京)が端的な例だ。同社の販売店は直営だったが、九八年からFCを導入、今年四月初めの店舗数は導入時の六・五倍、二千二百八十三店に急増。昨年八月期決算の売上高は前期比六二%増を記録した。

 同社のFC制度は、本部である同社が店舗を用意し、三年程度の契約で、開店費用と家賃などをロイヤルティーとして加盟店から徴収していく。開店費用は一店約五百万円。当座は本部が立て替えるから、出店がどんどん進む。同社は「直営店の開設では、急速な携帯の普及に間に合わない。FCなら競合相手を傘下に入れることも可能。直営は従業員が増えすぎる」とFC導入の目的を説明する。

 しかし、昨年後半以降、店舗増加に売り上げが追いつかなくなり、今年二月中間決算で百二十九億円の営業赤字を計上。四月には九十のFC店を経営するグローバルウエーブ(東京)が負債三十五億円で倒産。一転、店舗数を八月までに千五百四十に減らす計画を打ち出した。この間、高値でもてはやされた株価も急落した。

 学習塾のFCチェーン、関塾大阪市)は昨年十一月以降、宮城、愛知、福岡で個人、法人合わせて約三十人の加盟者から損害賠償請求訴訟を起こされている。原告はおおむね、加盟前に「だれにでも経営できる」「生徒は三十人は必ず集まります」といった説明を受けたが、実態が異なる上に、FC本部の支援もないと主張し、関塾に支払った加盟金や開塾費用などの賠償を求めている。

 一方、関塾は同様の訴訟で今年四月に勝訴しており、「十分納得して契約して頂いている」と主張する。同社は一昨年、全国三千教室の目標を掲げ、加盟者募集に拍車をかけている。今年二月現在のFC教室数は九百七十五で、九六年末に比べて四割増加。急速なチェーン拡大がトラブルの背景にありそうだ。

 二年前、コンビニ本部と加盟店のトラブルが噴出したが、拡大したFCバブルはトラブルの芽も膨らませ、一部にはじける気配も出ている。


 ◇情報開示の徹底を フランチャイズ情報サービス代表・羽田治光さん

 米国では小売り販売額の半分をFCが占めているのに対し、日本はまだ一割に満たず、有望なのは間違いない。しかし、本部と加盟店双方が常に利益を上げ続けられるとは限らない。それで業績不振の加盟店が「話が違う」と本部を訴えることが起きる。しかも、まともなノウハウを持たない本部が多い。通産省が今月公開したデータベースには六百五十六社のFC本部が載ったが、実は調査した本部は約千七百あった。掲載にふさわしくない本部が多かったようだ。

 FCの成長を維持するためには、トラブルを調整する制度が必要だ。まず、現在は小売業に限られている加盟希望者に対する情報開示義務を全業種に拡大し、厳格にすべきだ。また、加盟契約を一定期間内は無条件に解約できるクーリングオフ制度も検討すべきだろう。(談)


 ◆米国生まれのビジネスモデル

 フランチャイズとは、ある事業の経営手法や専門知識、ブランドを持っている本部が、加盟金などを受け取る見返りに加盟店にノウハウを供与し、チェーン展開するビジネス形態をいう。本部を「フランチャイザー」、加盟店を「フランチャイジー」と呼ぶ。

 近代的フランチャイズは、米国で19世紀後半、ミシンメーカーが始め、第二次大戦後に広がった。日本では63年に洋菓子の不二家が始めたのが先駆けといわれる。73年制定の中小小売商業振興法は、小売業のFC本部に、経営指導の内容や加盟者の負担金などをあらかじめ加盟希望者に書面で説明することを義務づけているが、罰則はなく、違反に対する通産相勧告も、まだ出されたことがない。欺まん的な加盟者勧誘や不当な加盟者拘束は、独占禁止法に触れる場合がある。


 【写真説明】

 先月、新装開店したトヨタショールーム。FCのビデオレンタル店と同居して集客力アップを図る/撮影・高波淳=東京都江戸川区